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所在地:東京都千代田区大手町1丁目5-5 大手町タワー B1F
企画:東京建物株式会社
プロデュース:東邦レオ
空間デザインディレクション・家具設計:TAAO 會田倫久 +スタジオキノコ
植栽 : 東邦レオ、東京グリーンサービス
施工:デザインアートセンター
竣工:2025年3月
写真:長谷川健太
Ootemachi tower Public space design B1F
足下に〝森〟を持つ高層ビル
地下鉄大手町駅に直結し、丸の内仲通りの西の終点に位置する大手町タワー。その最大の特徴は建物の足元に広がる3600m2の緑地帯、“大手町の森”である。森の面積は敷地の約1/3にものぼり、開発の当初より“都市を再生しながら自然を再生する”というコンセプトのもと、大手町タワーのブランディングの中核を担ってきた。大手町の森は、もともと建物の建設と並行し千葉県君津市内の山林で約3年間をかけて実際に木々や草花を育成する「プレフォレスト」という手法を用いて、建物の竣工にあわせて土壌や植物を大手町の敷地内に移植したというもので、再開発の枠組みの中では類を見ない成り立ちを持ついわば、都市の森である。2013年の竣工以来、自然の森に近い形での管理を継続しており、今では皇居外苑など周辺の緑地も含めたエリア一帯で生態系ネットワークが形成されている。年月が流れ、森が十分に成熟した2022年。ビルの開業10周年を迎えた東京建物社は、東邦レオ社と共にこれからの10年を見据え大手町の未来に緩やかに同期する、新たな建物の価値創造を目指したリブランディングを行うこととなり、TAAO+studio KINOKO はグランドレベルにある大手町の森から地下二階にかけての共用部空間のデザインディレクションおよび、什器設計を担当した。
地下3層を貫く人と緑の連続体
大手町タワーの共用部空間の特徴は、グランドレベルに位置する森と地下2階レベルに位置する地下鉄連絡通路が、天高50m超の巨大な吹き抜けを介して斜め方向に接続するというダイナミックなものであった。建物の抱える課題としては、地下空間から見た森への視覚的な連続が弱く連絡通路を行き交う8万人の通行客に大手町の森が認知されていないというものであった。地上階と地下階を視覚的・体験的に近づける空間的な施策が必要に思われた。設計のアプローチとしては、3層にわたって森と地下を隔てる建築の床や内外境界を越境しながら、巨大な吹抜けづたいに森の気配と人の滞留の場を段階的に地下空間へ降ろしてくるというもので、B2Fの地下鉄連絡通路側からグランドレベルへのキーとなるエリアに緑の侵食と人の活動を後押しするユニット什器を配置しながら、地下3層を貫く賑わいと緑の連続体をつくりだし大手町の森への人の誘引を狙うというものである。各エリアの什器群のマテリアルとしては、製材前の生木や山石など野趣味のある素材を一部に採用し、森の気配を共有部空間全体へと波及させた。
家具のアクセシビリティデザイン
公共的な性格を帯びるビルの共用部の利活用を考えるにあたり家具単体をデザインするのではなく、空間をダイナミックに変化させ商空間の公共スペースに期待される多様な活動を後押しする装置としての家具群の可能性を模索した。ここでは、公共空間に必要とされる安全性・安定性・盗難対策といった要件を満たしながら、大手町タワーの空間のポテンシャルを最大限引き出す什器をデザインの仕組みとして、〝家具のアクセシビリティデザイン〟という概念を掲げ、全てのエリアで共通の概念として、デザインを行なった。〝家具のアクセシビリティデザイン〟とは各什器に対し家具以上建築未満のサイズ・重量・固定の仕組みを持たせることにより、一見すると容易には動かせない巨大な什器が、固定の仕組みを理解することで容易に分解・移動でき、管理者が場所を主体的を運用することを後押しする什器システムの提案である。
B2Fは、天井高さ50m程の吹き抜けを上部に持つ広場空間であり、見上げの位置にある森に対して断面方向での緑の連続が必要に思われた。そこで4本の既存柱の間に巨大なムーバブルツリーを設置し、地下2Fから地上への高さ方向での視線的の連続をつくりだすこととした。ムーバブルツリーや既存柱の周りには、取り巻くようにソファユニットやベンチを設け、寄る辺ない吹き抜け空間の中で、通行客の止まり木となる居場所をつくりだした。また、地下鉄から建物への玄関口ともなっているこの広場は月数回のイベントや催事で目まぐるしく場所の使い方が変わる。フレキシブルな空間の活用が求められる一方、商空間公共の特性上、固定性の確かさや分解固定の簡明さが求められた。空間の利活用のメインを担うソファユニットは重量の大きいムーバブルツリーに貨物用ベルトで固定する構成とし、それらを取り外し組み替えることで場所の運営意図に沿って使い方を自由に変えられるデザインとした。
B1Fでは、建物の横のサンクンガーデンに森の一部が入り込んできていたことから、森の気配を建物の内外境界を超えて室内側に呼び込むべく、ガラス面を越境する形でひと繋ぎに連続するソファ植栽ユニットを設けた。また、B1Fは施設の上下動線の交差点となる踊り場空間であることから、森と絡めた積極的なイベント活用が企画されていた。これも地下2階から見上げた際の人の賑わいにより人を上階へ誘う施設側の施策である。ここでは不定形の可動植栽ユニットを帯状ソファユニットでバインドして固定化する什器構成とし、帯状ソファユニット同士を固定しているコルク栓を外すことで分解しレイアウトを変えられるデザインとした。
1Fは、すでに豊かな森がそこにあることから、森との距離を見直すことで森と人との新たな関係を発見できる場とした。開業から10年の間、手塩にかけて育てられてきた大手町の森は利用者が一切足を踏み入れることの出来ない守られたエリアであった。今回のリブランディングにあたり、森に対する利用者の心理的な距離を変えてゆきたいという施設側の気持ちを後押しする形で、舗装面から森へと少しだけ突き出したベンチをデザインした。ベンチの先端に脚部構造として据えられた山石の脇の腰を下ろすと、森をひとりじめできる特別な場所である。また可動の什器として、波形とJ型の二つの型のベンチを用意した。これらは組み合わせることで森を眺める長いベンチにもなるが、ずらして使えばちょっとしたワークテーブル、単体で使えば昼寝やストレッチにも使える。金融系オフィスやラグジュアリーホテルが入居する大手町タワーにおいて、この場を訪れる人々の様々な活動シーンに寄り添い、森の木陰で自分なりの振る舞いを発見できる多用途な家具のあり方である。こちらも一見して動かないように見えるが、ベンチの一方の縁にキャスターが設置されており、他方をハンドリフターにより持ち上げることにより移動が可能な仕組みである。
最後に大手町の森の、街に対する構えについて考えた。サインやゲートなどが最前面に出るような通常の商業ビルのファサードのデザインよりも、森自体がファサードとなり街に溢れ出すあり方がここに相応しいと考え、ビル風から森を守る防風スクリーンの下半分にマップや施設案内などのインフォメーション機能を整理、目線より上には透明なガラス越しに森が一面に広がるデザインとし、そこに浮かび上がるように大手町の森のロゴサインを施した。